デモ隊と警官隊
1999.3.16
朝食の後、トイレに入った。ついに出た! 快便! しかも硬いうんこ! やったーーー!!! 硬いうんこが出てこれほど嬉しかったのは生まれて初めてだと思う。思い起こせばバナーラスで下痢になって以来、ずっとうんこは限りなく液体に近かった。今まではオナラひとつするのにも神経を使っていた。下痢の時のオナラほど怖いものはない。オナラをしようとして別のモノが出てしまうのが実に怖かった。でもこれからは違う。気兼ねなくオナラができる。ためしにオナラをしてみると、実に小気味いい「プー」という音がした。感涙…。
さて、インド滞在のために残された時間もあとわずか、というわけで今日はお土産を買うことに決めていた。しかし、ルピー紙幣が残り少なくなっていた。米ドルTCも日本円もまだ若干残っていたので、両替に行くことにした。目指すは東京三菱銀行。
日系の銀行とはいえ、銀行員がインド人ばっかりなのが意外だった。しかしよく考えたらあたり前だった。日本にある外資系の銀行も働いているのはほとんどが日本人だ。私は2000円ほどをルピーに両替した。金額を少なめに渡されるという詐欺行為はなかったが、両替するのに1時間もかかったのには、やっぱりここもインドの銀行だ、という気がした。ともかくこれで充分贅沢できる。
そして、両替を終えて外に出ようとして、目の前の光景に驚いた。警察官がうじゃうじゃいる! もしかしてとんでもないところに遭遇してしまったのではないか!と不安になったが、内心ちょっとわくわくしてきた。
6車線ほどの広さの道路にバリケードが築かれ、警官隊200人と女性100人程度のデモ隊がにらみ合いをしている。野次馬や報道カメラマンもいっぱい集まっている。警官隊の前列には棍棒を持った警官が並び、後列にはライフル銃を肩からぶら下げて防弾チョッキを着た警官が並び、一番後ろには放水車が控えている。
もしかして!と思って私は地図を広げた。案の定だった。この道路の先には一体何があるのだろうかと思って地図を見たのだが、この道路をまっすぐ進むと国会議事堂にぶつかる。ここは国会議事堂に向かう一番大きな道路だったのだ。デモ隊の行進にはもってこいの場所のようだ。
警官隊に対して、デモ隊は実に貧相だ。バリケードを挟んで、サリーを着た女性が座り込んで、中の一人がなにやら演説をおこなっている。私はデモ隊と警官隊が衝突するシーンを密かに期待していた。いつでも写真が撮れるように身構えながら、しばらく見物することにした。こんな状況になかなか出会えるものではない。まわりに外国人旅行者らしき姿がまったく見あたらないのが少々気がかりだが、こんな小規模のデモ隊なら旅行者の私が被害を受けるような事件に発展することもないだろう、と楽観的になっていた。
そして、幸いにも(残念ながら?)デモ隊と警官隊が殴り合いのケンカをすることはなかった。女性グループの演説が終わると、100人程のそのデモ隊は、バリケードの脇の歩道を通り抜けて、隣の建物に入っていく。あっけなくデモ隊が解散してしまって、私はなんだか拍子抜けしてしまった。しかし、警官隊の方はというと、まだ解散せずに武装したままで待機している。
色鮮やかなサリーを着た女性たちのデモ隊。左の建物は東京三菱銀行。 |
すると、別のデモ隊がやってきた。今度はさっきより強そうだ。多くの男性がこっちに向かって歩いてくるではないか。先頭を歩く男性は、包帯でぐるぐる巻きにされたかかしの様な人形を掲げている。横断幕も掲げているが、ヒンズー語で書かれているので、彼らが何を主張したいのかわからない。
やがて、かかしを掲げたデモ隊はバリケードの前で立ち止まり、演説を始めた。警官隊の方もさっきの女性100人のデモ隊の時よりも緊張しているのがわかる。「もしかしたらもしかするかもしれない。やれ、やれー!」と私の心の中の悪魔が叫んでいた。対岸の火事と他人のケンカは大きければ大きいほど面白い。
近くにいたジャーナリスト風の女性に聞いてみた。
「彼らは何を要求しているのですか?」
「1996年に製薬会社が15000人の人間を殺した。彼らは賠償金を求めている。」
との返事が返ってきた。
演説が終わると、包帯でぐるぐる巻きにされた人形に、彼らは火をつけた。製薬会社によって殺されたことをアピールしているのだろう。半分以上その人形が燃えたあたりで、そのデモ隊は解散した。そしてまたもや隣の建物に入っていく。
突然、放水車が放水を始めた。水はデモ隊に対して向けられたわけではない。燃えている人形に対してかけられた。火が消え、燃え残った残骸を、数人の警官が道路の脇に放り投げた。
私は、彼らが入っていく建物が何なのか気になった。今度はサラリーマン風の男に聞くと、「あそこは警察署だ」との返事が返ってきた。どうやらデモ隊は、演説をひとしきり終えると、整然と警察署に入っていくもののようだ。
製薬会社に殺されたと訴えるデモ隊
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この製薬会社に損害賠償を求めるデモ隊の次には、赤字にクワの絵が描かれている旗を掲げた1500人程の集団がやってきた。これは私にも一目で彼らが何者かがわかった。共産党だ。そして、彼らもまた今までと同じようにバリケードの前で演説を行うと、警察署の中に整然と入っていった。
CNNのニュースで流れるような、デモ隊と警官隊の激しい戦いを期待していたが、どうやらそんなものを見物することはできないような気がしてきた。いつのまにか警官たちも疲れてきたように思える。防弾チョッキをお尻の下に敷いて座って談笑している警官もいる。新しいデモ隊が接近してくると多少構えているが、いったんデモ隊が解散するとすぐに警官たちは気を抜いてさぼっている。
共産党の次に来たデモ隊はもはや完全に警官隊から相手にされていなかった。それもそのはず、たった10人程のデモ隊だったのだ。横断幕には英語で書かれていたので、彼らの要求したいことはなんとなくわかった。「COKE-PEPSI
QUIT INDIA」と書かれていた。反グローバリゼーションの一種だろうか。
もうそろそろ飽きてきた。何も起きそうになかったからだ。私はここを去ることにした。しかしまだまだ後ろにデモ隊がたくさん控えていた。セメント会社を訴えているらしき横断幕を掲げて座る集団は、順番待ちをしているような感じだった。もしかしたら、これは政治的主張をするための、インドではごく普通のやり方なのかもしれない。
いくつかお土産の品を買い、ビジネスマンに大人気という店でめちゃくちゃおいしいシェイクを飲み、宿に戻った。その後は、一度は見ておこうと思っていたインドの映画を見に行くことにした。映画大国のインドの映画は面白いと聞いていた。地図で調べると、宿から歩いて5分ぐらいのところに小さな映画館がある。遠くにある大きな映画館に行くのもめんどくさかったので、私は宿からすぐ近くの映画館に決めた。
館内は始まる前からすでに薄暗い。客は男性がほとんどで、女性は2階の高価な特別席に座っている。ポスターを見るかぎりではアクション映画のようだった。内容は、悪い警察官を格闘技の強いヒーローがやっつけるというものだった、と思う。何を喋っているのがさっぱりわからなかったので、もしかしたら違う内容かもしれない。正直なところ面白くなかった。退屈な2時間だった。やはり言葉の壁は大きい。映像だけで理解しようとしたことに無理があった。さらに私を混乱させたのが、途中にストーリーとは全く関係なく流れる踊りのシーンだ。およそインドとは思えないような花畑や雪山や綺麗な場所で、男性と女性が歌い、踊っている。観客の大多数を占める男性にとっては、その女性の踊りこそ見たいのかもしれないが、ミュージカル嫌いの私にとっては、その踊りのシーンは邪魔もの以外のなにものでもなく、ストーリーを混乱させるだけだった。これがビデオならきっと早送りしていただろう。
ただ、映画館の中の雰囲気は見ていて面白かった。何かあるたびに観客は歓声をあげる。昔の日本もこういうことはよくあったと聞いているが、映像が時々とぎれてしまったり、止まったりしてしまうのだ。すると、映像が再開されるまでブーイングの嵐が続く。ヒーローがピンチになると応援をし、ヒーローが悪者をやっつけると拍手をし、面白いシーンであれば笑う。ヒーローとヒロインが見つめ合い、抱き合い、あと一歩でキスシーンというところで別の場面に切り替わってしまうと、これまたブーイング。わかりやすい連中だ。
夕食は、いつものGolden
Cafeでステーキを食べることにした。混んでいて、日本人と相席になった。4人掛けの席で全員が日本人だった。
私の前には、OLをやめてアルバイトをしながら、一年の半分はインドで暮らしているという女性が座り、隣には私と同じく大学生の男性が二人座っていた。きっと私より年下だろう。そしていつものように旅の情報交換をした。あそこの町はどうだったとか、こんなひどい目にあわされたとか、よくある会話だ。意気投合した我々は場所を変え、飲み直すことにした。サイババの弟子ライババに会っていろいろ占ってもらったという話で盛り上がり、インド最後の夜は更けていった、、、
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