ビール&マトンで パーティ

1999.3.8

 バスに乗っている日本人は私一人だった。それがなんとなく嬉し かった。せっかく外国に来たんだから、日本人よりも外国人と仲良くなってみたかった。今までは日本人と一緒に行動しすぎた。『地球の 歩き方』に載っている安全そうな宿ばかりを選んでいた。それではどこに行っても日本人に会うし、新しい発見がないような気がした。そ んなわけで、ジャイサルメールでは、バスで知り合ったイギリス人カップルが推薦するホテル(ガイドブックには載っていない)に泊まっ てみることにした。
 ジャイサルメールに着いたのが午前10時。バス降り場には、客引きのリクシャーやホテルまで送迎するためのジープが数多くとまって いた。その中に目当てのジープを見つけて、私とイギリス人カップルは乗り込んだ。するとジープの中から日本語で「こんにちは」という 声が聞こえてきた。ありゃりゃ、どういうわけか日本の女の子が乗っている。彼女は私に言った。
「荷物これだけですか? 少ないですねえ。」
「でしょう。よく言われます。ところで、このホテルどうですか? いいホテルですか?」
「ええ、いいと思いますよ。ホテルの人たちもいい人たちですし。」
 などといつものごとく旅の情報交換をやっているうちにホテルに着いた。シングルルーム、バス・トイレつきで一泊50ルピー。屋上に は、ジャイサルメールの城壁を眺めることのできる展望レストランがある。これはいい。日本人客は彼女(仮名をA子さんとしておこう。 K大学3回生の関西人)一人で、後は欧米人の客ばかりのようである。ここに泊まることに決めた。

 じゃ、このホテルに泊まることに決めたわけだし、部屋に荷物を置いたら、宿帳に名前を書いて、宿泊代を払って、それから・・・など と考えていたら、
「荷物置いたら、部屋の鍵を閉めて。出かけるよ。来て。」
 とホテルのマネージャーのジョー(24才、既婚、けっこうハンサム)に言われた。ジープで観光に連れてってくれるんだあ!わーい! と思ってほいほいついていったが、甘かった。何ヶ所かあるバス停に行ってだらだらとするだけだった。ジャイサルメールの城壁の内側に は連れて行ってくれそうもない。ジョーの目的は、日本人の客を獲得することだったのだ。そのために私とA子さんがエサとして連れてこ られたのだった。
「日本人はみんなHotel Renuka(『地球の歩き方』で絶賛の宿)に行ってしまう。ぜんぜんうちのホテルに来てくれない。だから協力してほしい。」
 というのがジョーの言い分だった。ジョーはジャイサルメールに着いたばかりっぽい日本人に声をかけるけど、日本人はぜんぜん相手に しない。そうした日本人の気持ちは私にはよくわかる。
 まあ、そんな調子で一人も日本人の客が捕まらない客引きに付合わされたわけだが、彼らと喋っていると楽しかった。ジープにはジョー の他に、キャメルサファリのガイドであるナラン(40才代)というおじさんもいて、彼もおもしろい人だった。サモサやチャーイをお ごってくれた。A子さんも楽しい人だった。
「女性一人で旅してるん? すごいなあ。」
「ううん、最初は二人でいてん。インド旅行って親がなかなか女の子一人で行くの認めてくれへんやん。でも私どうしても来たかってん。 だから友達誘って一緒にインドに来てん。でもこの町で、喧嘩してなあ。いや、もちろんそれまでも何回か喧嘩しててんで。ついにこの町 で大喧嘩して友達は去っていってん。私はこの町気に入ったからしばらく滞在したかってんけど、、友達は他の所にも行きたがって、別れ たわ。インド来てしまえば、こっちのもんやからな。」
「はあ、なるほどねえ。そういうことか。」
「私はのんびりしたかってんけど、友達は嫌やったみたいやねん。」
「ふーん・・・。(おいおい!いいのか?その友達はどうなるんだ?)」
「それより、なんか予定とかなかったん?ほっといたらずっと付き合わされるよ。やりたいことあるんだったら、早めに言っといた方がい いよ。」
「あ、そうなん、じゃ言っとこう。」
 そういえば、ここ何日かシャワーを浴びてない。いくらインドが暑いとはいえ、夜にクールシャワーを浴びるのはけっこうつらいものが ある。シャワーは昼浴びることにしていた。それに絵葉書も送りに行きたかった。
 そう言ったら、ジョーはすぐにホテルに戻ってくれた。久々のシャワーは実に気持ちよかった。シャワーも終わって部屋でくつろいでい ると、今度はジープで郵便局に連れて行ってくれた。インド流手紙の出し方も教えてくれる。
「手紙を出すときは、切手を貼ってスタンプを押すまで見ておかないとダメだ。スタンプを押すまで見ていなかったら、郵便局の職員は切 手をはがしてしまう。私にはがきを渡しなさい。私がやりましょう。」※10
 そうか!そうなのか!!バナーラスでもハガキを出したが、あの時はスタンプを押すのを確認しなかった。やられた!今まで出した手紙 は日本に届いていないかもしれない。ありがとよ、ジョー。

 その後は、ジャイサルメールの城壁を遠望できる荒野にジープを停めて、酒盛りが始まった。インド人は酒を飲むことをうしろめたく 思っており、隠れて飲みたがると聞いていたが、まさにその通りだった。お酒を売ってるお店も看板をはっきり出していなかったし、彼ら は人のいないところを探しているようだった。
「ここはいいところだ。ここで飲もう。」
 と、ジョーが言い出し、乾杯! お店で買ったビールを4人で回し飲みした。
 ビールとはいえ、日本のビールよりもアルコール度数が高い。それをしきりに私にすすめるもんだから、私はけっこう酔ってしまった。 どうやら私以外のみんな、ジョー、ナラン、A子さんは、お酒に強いらしい。いや〜、極楽、極楽。

 と、極楽気分も束の間、ホテルに戻ってきたら、さっそくジョーが キャメルサファリ(ラクダに乗って砂漠を旅するツアー)の説明をしようと言い出してきた。キャメルサファリが目的でここまで来たんだ から、私としても是非参加したかった。ジョーはビールを飲んでたときとは別人のような真面目な顔をして、サファリの内容説明と料金交 渉を始めた。
「3泊4日の旅なら120ドルだ。1泊2日じゃだめだ。1泊2日じゃ、本当の砂漠を見ることができない。」
 そんなジョーの言葉にだまされたのか、酔っていたせいなのか、彼の巧みな話術のせいなのか、本当は1泊2日でも十分だと思っていた のに、3泊4日のツアーを申し込んでしまった。もしや、さっきの酒はジョーの作戦なのか?と思わないでもなかったが、酔っ払うほどお 酒を飲んでしまった私が悪い。意識がもうろうとするなか、それでもなんとか120ドルを75ドルまで値切って交渉は成立した。それで も相場より高い。きっとジョーの思うツボだろう。酔いがさめて冷静になってから考えて、少し後悔した。しかし、払ってしまったものは しかたない。存分に楽しむとしよう。

 酔いからさめて部屋でのんびりしていると、またジョーがやってきて、
「今からマトンを食べよう。パーティをやるよ。来て。」
 と言ってきた。やったー!肉だ、肉!でも、残念ながらタダではなかった。
「パーティにはお酒が必要だ。ビール代の50ルピーをくれないか?」
 えー、金とるのー。もうお酒は飲みたくない。そう思ったけど、50ルピーで夕食を食べると考えて、お金を渡した。
 連れられて、着いたところは、炊事場のような狭い部屋。ジョーを含む若者数人、A子さんなどがいて、外にはおこぼれにあずかろうと 待ち受けている犬が数匹。どうゆうわけか欧米人の客は誘っていないらしい。すでにマトン入りのカレーができあがっていて、あとは、 チャパティ(小麦粉をこねて円盤状の形にしたもの)をA子さんが作っている。
 おいしいカレーを食べながら楽しい会話が続いた。得たいの知れない酒も出てきたが、もうアルコールを飲む気力はなかった。相変わら ず、どいつもこいつも大酒飲みなんだけど、誰も酔っているように見えない。
 そして、話題はいつのまにか恋愛話になっていた。ジョーとA子さんの雰囲気がどうも怪しくなってきた。この二人、ひょっとしたらそ ういう関係なのかな、と思ったまさにその時だった。ジョーとA子さんが私の目の前で濃厚なキスを始めた。おいおい!人の前でいきなり 何始めるねん! 私は言葉に詰まってしまった。
 そうしたら今度はそれを見ていた隣のインド人の少年(10代後半)が私の頬にキスしてきた。やめろー!気持ちわる!こいつホモ か!?と思ったけど、そうでもないらしい。この少年は、A子さんと喧嘩別れした友達(マヤさん)のことが好きで、積極的にアプローチ していたが、ふられたらしい。A子さんいはく、
「もう、あんたはいつまでもしつこいなあ。マヤ、マヤ、マヤ、マヤって、ずっと言ってるなあ。」
 とのこと。これを聞いて、A子さんとマヤさんがこの町で喧嘩別れした理由がわかったような気がした。A子さんは、恋人ができたのな ら当然この町に残っていたいだろう。しかし、マヤさんはどうだろう。かわいそうに、マヤさん。
 ともかく、そんなこんながありながらも、私はおいしい料理を食べることができたので、満足して寝た。

※ 注
(10) このとき出したハガキは無事日本に届いていたが、バナーラスで出したハガキは届かなかった。


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