列車に乗り遅れる

1999.3.4

 水のような下痢は続いている。どうしたものだろうか。今夜発の列車のチケットはすでに購入してある。昨日よりトイレに行く間隔が長くなったからか、なんとか次の町に行くぐらいはできそうな気がした。こんな駅前のホテルにいても楽しくない。少し無茶かもしれないが、今夜の列車でアーグラーに行くことに決めた。
 朝食は、フレンチトーストとバナナラッスィ。今はカレーは見たくもない。消化のいい食べ物を食べるのがいいのは理解しているが、消化のいい食べ物っていったいなんだろう? とりあえず油ものを避ければオッケーかな。私はその程度の知識しかなかった。

 朝食を終えて、休憩のためにホテルに戻ってきた。こんなに体調が悪いときにまたもや嫌なことが起こった。ベッドに置いていたはずの旅の友『地球の歩き方』がない! ちゃんとロッカーに入れておけばよかった、と今更後悔しても遅い。部屋を掃除しに来た従業員に聞いてみた。
「ここに置いてあった本を知らないか?」
「さあ、知らないなあ。大事な本なのか?」
「うん、私にとっては大事な本だ。」
「いくらの本?」
「1000円ぐらい・・・300ルピーぐらいかな。」
「じゃあ、探しといてやるよ。」
 ほんまに探す気あるんかいな。そう思いながら、日課のようにトイレに入った。そしてトイレから出てくると、なぜか枕の下に『地球の歩き方』が置いてあった。なぜ!? さっきはなかったのに。不思議に思っているとさっきの従業員がやって来た。
「君の本を見つけたよ。トイレに入っているようだったから、枕の下に置いておいた。」
「ありがとう。嬉しいよ。」
「見つけてやったから金をくれ。50ルピー。大事な本だったんだろ。」
 そうか、そういうことだったのか。どうしてこんなに早く本が見つかったのか不思議に思ったが、もしかするとそういうことなのかな。この従業員が本を盗っていたのだろうか。もちろん彼が盗んだという証拠はどこにもない。本当に彼はどこかから見つけだしてくれたのかもしれない。でも、彼に金は払いたくない。結局10ルピーだけ渡して、彼には私の目の前から消えてもらうことにした。そして、チェックアウトタイムの12時まで部屋でゆっくり休むことにした。

 列車の出発時間は5時20分。ホテルをチェックアウトしてから出発までの間、観光する気力もなかったので、ひたすら駅の待合室で座っていた。ここならトイレもすぐ近くにあるので気分的に楽だった。そろそろ出発時間という頃になって、プラットホームに出て、列車が到着するのを待つことにした。
 体調が悪いからだろうか、誰とも喋りたくない気分だった。同じプラットホームに日本人を見かけたが、できれば喋りかけてきてほしくなかった。しかし、彼は私に話しかけてきた。
「アーグラーに行く列車を待ってるんですか?」
「はい、そうです。そちらもそうですか?」
「はい。なかなか来ませんよね。」
 列車がなかなか来ないので、しばらく会話をすることになった。彼の名は水野君。海外旅行サークルに所属している大学1年生、20才。インドが初の海外旅行だと言う。なんでまた初の海外旅行でこんな国に来たんだろうか。
 それにしても列車がなかなか来ない。もう2時間はたっている。喋るネタにも尽きてきた。始発駅の列車がこんなにも遅れるとは、いくらインドとはいえ、不安になってきた。何人かの駅員に聞いてみることにした。その答えがことごとく、
「その列車はもう出発してしまったよ。」
 というものだった。なにーーー!!!
「本当ですか? 私たちは1時間前からこの列車を待っていたが来なかった。いつ出発したの?」
「とにかく、もう出発した。あの窓口で払い戻しをするといいよ。お金が50%戻ってくるよ。そしてまた予約しなおすといい。」
 とほほ・・・。なにがなんだかわからないが、どうやら列車はすでに出発してしまっていたようだ。プラットホームが違ったのかもしれない。構内放送でプラットホームの変更を言っていたのかもしれないが、聞いていなかった自分が悪い。親切にも英語で放送していたのに・・・。

 また今日も、Tourist Bungalowで一泊することになった。水野君も一緒だ。
 昨日親しくなった同部屋のインド人が話しかけてきた。
「あれ、列車に乗らなかったのか?」
「ええ、どうやら列車に乗り遅れたみたいなんです。」
「そうか。じゃあ、明日出発するのか?」
「はい。でも予約がとれるかどうか・・・。」
 まあ、しかたないな。体調もあまり良くないことだし、もう一日ゆっくり休むのもいいだろう。シャワーを浴びるのもめんどくさくてそのまま寝てしまった。

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