手作りの世界史実物教材

ガリレオの振り子時計

    
ガリレオの息子が書いたスケッチ(wikipediaより)           再現模型             


1.振り子の等時性

 1583年のある日、ピサの大聖堂に入ったガリレオは、そこで天井から吊るされたランプが揺れているのを見てひらめきました!
「ランプが大きく揺れるのと、小さく揺れるのとでは、ランプがいってから戻ってくるまでの時間が変わらない! もしかして俺って天才?」と。(弟子の作り話という説が強いようですが…)。
 これがいわゆる「振り子の等時性 」です。
 振り子が揺れる端までの大きさを振幅といいますが、その振幅が大きくても小さくても、周期(一往復する時間)は同じという原理です。
 この原理を利用して、正確な時を刻む時計を作ろうとして、ガリレオは晩年に振り子時計を考案しました。失明していたガリレオは息子にスケッチを書かせます。でもガリレオは時計を完成させる前に死んじゃうんです。そのスケッチをもとに作ってみたのが、この振り子時計です。

 
  Galileo Galilei(1564-1642)


2.海上覇権争いと時計開発競争

 時計そのものはかなり昔から存在していました。古代エジプトの日時計や水時計。そして800年頃にはフランスのルイブラントが砂時計を考え出しています。現在のような機械式の時計については、1350年頃イタリアのパドヴァ大聖堂に作られた時計塔が最古とされます。一応、家の中に置けるような小型の時計も徐々に普及してきますが、分単位の正確な時を刻むことは難しかったようです。そんな中、日増しにもっと正確な時を刻む時計の必要性が高まってきます。
 1492年コロンブスが新大陸を、ついで1498年にはヴァスコ・ダ・ガマが東洋への新航路を発見して以後、ヨーロッパ史は海上の支配権をめぐる争いが激化します。まず16世紀の世界をしたのは、新大陸を発見したスペイン、および東洋への海上ルートをおさえたポルトガルでした。ところが17世紀になるとオランダとイギリスが台頭します。両者はスペイン・ポルトガルに代わって覇権をめぐって激しく争い、17世紀末にはフランスも加わって、海上の覇権争いはいっそう熾烈となりました。
 そして、海上制覇の決め手の一つが「正確な時を刻む時計」の開発 でした。では、なぜ海上制覇に「正確な時を刻む時計」が必要なのでしょうか。

 実は、それまで何百年もの間、船はどこへ行くにも自分がどこにいるのかわからないまま航行していました。王、学者、船長たちは、「広大な海の中で自分の船が今どこにいるのか、それを知る方法を開発することができないものだろうか」と悩んでいました。
「自分の船が今、緯度何度くらいの位置にいるか」というのは知っていました。昼なら正午の太陽の位置、夜なら北極星の位置によって知ることができました。
 では経度は?
 船長たちは、「現在、母港から西へ○○キロの地点にいる」と答えることはできませんでした。ベテラン船長ともなれば、潮流や海鳥を見ておおよその見当はつけられましたが、ときには予想がはずれて方角が狂ったり、予定以上に航海に時間がかかったりしました。すると恐ろしいのが、食糧や水の不足、座礁などです。じゃあ、そうならないように、一定の緯度にそってあとはひたすら西(もしくは東)へ航海すればいいかというと、そのルートは海賊たちにも知られていて危険です。それもこれも「正確な経度を測定 」する方法がなかったからです。
 海上制覇をめざす国は、「正確な経度測定法」の発見者に賞金を用意して、この問題の解決をめざします。

≪正確な経度測定法を発見した者に対する賞金≫
国名 時期 賞金
スペイン 1598年 1000ダカットの報奨金と2000ダカットの終身年金
オランダ 17世紀初め 1000〜30000ギルダーの報奨金
イギリス 1714年 イギリス−西インド間の航海で
経度1度以内の誤差であれば10000ポンドの賞金。
同じく40分以内の誤差であれば15000ポンドの賞金。
同じく30分以内の誤差であれば20000ポンドの賞金。
フランス 1715年 10000リーブルの報奨金

 科学者たちは考えました。
「地球は丸い。円は360度。24時間で一回転するから、1時間で15度回転する。だとすると、ある船が母港太陽が一番高いときに時計を12時(正午)に合わせ、出航すれば、後は船がどこにいても船上で太陽の南中する時刻を船の時計で見れば船の経度が分る。例えば、太陽の南中するときに船の時計が午後2時とわかれば、船が母港から30度西にいることがわかる。」と。
 お〜、なんとすばらしい。つまり正確な時間がわかれば、経度を導き出せるというわけです
 17世紀初め、当時世界最高の天文学者、科学者として有名なガリレオも賞金目当てにこの課題に挑戦します。スペインとオランダ政府に自分の提案を持ちこみますが、失敗! あ〜残念。
 ガリレオが発見した「振り子の等時性」に着目したホイヘンスが1657年に振り子時計を発明します。実はガリレオの考えた振り子(「単振子」と言います)では振幅が大きくなると等時性が成立ちませんでした。そこで、揺れの大きい(振幅が大きくなる)船の上でも周期が一定になるような振子時計を考えました。これはそれまでの機械時計よりも小型で、しかも分単位の正確さというすばらしいものでした。しかし、この振り子時計ですら、本格的な嵐には勝てず…。
 そこで、嵐がきても大丈夫で、しかももっと小型化するために、ホイヘンスが開発したヒゲゼンマイを振り子の代わりに使います。しかし、こんどは気候や気温の変化が歯車の働きに影響して、時計を狂わします。
 最終的にこの難題の解決に成功したのは、天文学者でも時計師でもなく、一介の大工ジョン・ハリソンというイギリス人でした。なかなか賞金を受け取れなくて苦労するみたいですけどね。ジョン・ハリソンに興味を持った人は絵本『海時計職人ジョン・ハリソン』を読んでみてはいかがでしょうか。


3.模型の製作過程

1. ホームページ「技術史工房」の続木先生から設計図を頂きました。

2. Inkscapeというフリーソフトを使って設計図を作成。

3. レーザーカッターで切り出す。板は厚さ4mmのシナベニア。
 我が息子たちの通う科学教室で切ってもらいました。

いけ! レーザービーーーム!!

4. 組み立て。棒は直径3mmの竹ひご、錘(おもり)は90g。

 これで完成・・・と言いたいところですが、摩擦が大きすぎて、しばらくすると止まってしまいます。錘が90gと、全体のサイズに比べてデカすぎるのも、そのためです。摩擦を減らすべく、もう少し改良しようと思います。
 なんとか動くところも撮影できました。




【参考文献・ホームページ】

・角山栄『時計の社会史』中公新書、1984年
・ルイーズ= ボーデン『海時計職人ジョン・ハリソン―船旅を変えたひとりの男の物語』(絵本)あすなろ書房、2005年
・中本繁実監修『面白いほどよくわかる 発明の世界史』日本文芸社、2008年

技術史工房
 振り子時計、蒸気機関などを製作し、技術の歴史についての調査・研究を行っています。私の振り子時計の設計図はこのホームページ管理者の続木先生から頂き、いろいろ相談にものってもらいました。

ひねもすあそび
 私の息子たちが通う科学教室。こちらのレーザーカッターで歯車等を切ってもらったり、相談にのってもらいました。

LongLongAgo
  本業は金属加工の会社ですが、木工時計を製作、販売しています。いずれもすばらしいデザインの振り子時計です。ガリレオの振り子時計をモチーフにした時計も販売しています。