手作りの世界史実物教材

木簡

 日本古代の役所の仕組みや人々の生活を伝える教材として、定番の木簡。木簡には用途に応じて色々なものがあります。荷物を送るときにそれに つける荷札、容器の中身を記した付札、路傍に掲示する札、墓地の卒塔婆(そとば)などです。また、消しゴムの代わりに小刀で文字を削り取れば 再利用ができたので、メモ・伝票・手紙など短期間で用が済む場合にも、木簡は多用されました。 作り方としては、木の板をカットして墨で文字を書けばできあがりです。ここでは、教科書『新中学校 歴史 日本の歴史と世界』(清水書院)に 載っている2つの木簡を再現してみました。
 
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≪資料1≫
 「長屋親王宮鮑大贄十編」
 〔読み方:ながやしんのうあわびのおおにえじっぺん〕
 (意味:長屋王の邸宅への貢ぎ物としての鮑10編)

≪資料2≫
 「阿波國進上御贄若海藻壹籠 板野郡牟屋海」
 〔読み方:あわのくにしんじょうみにえワカメいちかご いたのぐんむやのうみ〕
 (意味:徳島県から朝廷への貢ぎ物としてのワカメ1かご 産地は板野郡牟屋海)

 
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あっ、間違えた! 「王」って書くつもりが…。よし、ナイフで削って書き直そう。


 さて、以下は木簡に関するクイズです。


【問1】 現在、日本の木簡はどこで発見されることが多 いでしょうか?

 ア 高床倉庫
 イ 常に乾燥した砂漠のような土地
 ウ 湿潤な土の中
 エ 古くからある民家


【問2】 ≪資料1≫のような荷札用の木簡は、長屋王の 地位や財力を示すものとして有名ですが、その他にも長屋王家の財力を示す木簡が色々見つかっています。さて、次のア〜ウのうち、長屋王家で本 当にあったことはどれでしょうか? なお、正解は1つとは限りません。

 ア 冬に蓄えた氷が、暑い季節に遺体保存用として届けられた。
 イ 白米が、犬や鶴のエサとして届けられた。
 ウ 牛一頭と書かれた木簡もある。


【問3】 ≪資料2≫のような荷札木簡には、産地と産物 が書かれているはず。なのに、海岸で作られるはずの塩の産地が、内陸部の地名になっていることがあります。どうしてこのようなことが発生する と思いますか?


【問4】 木簡は、その大部分が断片と化した状態で発掘 されます。秘密保持のためにシュレッダーしたのかと思いきや、文字を書く練習に使ったと思われる木簡も断片と化しています。つまり、細かくさ れた理由はシュレッダー目的ではないようなのです。さて、なぜ木簡はバラバラ状態になっているのでしょうか?
<ヒント> 断片化した後の木簡の使い道を考えてみましょう。今は紙を使っていますが、昔は木片も使っていました。





↓↓↓↓↓ここから下に答えがあります↓↓↓↓↓














【問1の答え】  正 解はウ(湿潤な土の中)
 木簡は昔の人が残そうと思って書いたものではなく、短期間利用してすぐゴミになってしまうものです。だから、建物のなかで大事に保管されて いることは少なく、捨てられたはずの物が偶然地中で腐らずに残ったというケースがほとんどです。また、木片が何百年も腐らずに残るためには、 常に乾燥した環境か、逆に湿潤な環境にあることが必要です。日本の場合、常に乾燥した環境は考えにくいので、常 に湿潤な環境にあることが木片が腐らずに残る条件となります。土中で地下水による十分な水分補給を受けながら、紫外線と酸 素の影響が少ない還元状態に置かれ続けて初めてバクテリアの活動が抑えられ、木簡は腐らずに残ることができるようです。

【問2の答え】  正解はア・イ・ウのすべて
 白米を動物のエサにするとは、なんてぜいたく!

【問3の答え】  挙国体制で貢納物の生産を行っていたため。
 例えば若狭国(福井県)では、中央政府から若狭国全体で塩を貢納するように命じられ、海のない内陸部の人々も塩を作るための土器や薪を提供 するなどの分業体制を通じて塩生産に関わったり、内陸部の人が海岸部の人から塩を購入するなどして塩を納めたと考えられています。塩の長期保 存には特殊加工が必要だったため、若狭国は挙国体制で、大型の土器を利用し大規模な備蓄用塩生産を行っていました。

【問4の答え】  うんこをした後のお尻を拭くため!
 ちなみに、平城宮などでは便所は存在せず、排便は原則としてオマルを使い、使った木片とともに溝やゴミ捨て場に捨てていたようです。しか し、水分が十分にあるような場所に捨てられたからこそ腐ることなく今日まで残ったともいえます。
 ん? ちょっとまてよ…ということは発見さ れた多くの木簡はうんこまみれ…。


【参考文献】
問1は、木簡学会編『木簡から古代がみえる』(岩波新書、2010年)のp.169-173をもとに問題を作成しました。
問2は、渡辺晃宏『平城京と木簡の世紀(日本の歴史4)』(講談社、2001年)のp.123-124をもとに問題を作成しました。
問3は、木簡学会編、前掲書のp.31-33をもとに問題を作成しました。
問4は、木簡学会編、前掲書のp.201-209をもとに問題を作成しました。