手作りの世界史実物教材

バリスタ(弩砲)


              

1.バリスタ(弩砲)とは?

 火薬が登場するよりもはるか昔、紀元前4世紀頃、太い矢や石弾を遠くに飛ばす大型兵器が存在していました。なかでもアーム(腕木)を2本もち、弓本体の力を利用しないものをラテン語で「バリスタ」といいます。ローマ人はこの兵器をカルタゴから学びました。
 バリスタは主に"ねじれ式"と呼ばれる仕組みが用いられました。これは、髪の毛や動物の腱をよった大綱を木枠に掛け、2本の腕木を取りつけたもので、弓本体ではなく、引き絞った太綱がねじれて発生する張力を利用します。
 "ねじれ式"は命中精度が高く、素人でも扱いやすいのが長所です。短所は次の通り
 (1)威力を増すためにねじれを強くすると、本体をそれにあわせて頑丈にしなければならず重くなる。
 (2)威力を増せば太綱の寿命が短くなる。
 (3)湿度によって威力が減少する。
 (4)単発式である。


2.ローマ軍の強さの秘密は、"ものづくり"にあり!

 紀元前73年、ローマの支配に逆らおうとしたユダヤ人の反乱軍は、マサダの城砦にたてこもることにしました。マサダの城砦は、周囲を垂直に近い崖で囲まれた台地の頂上にあり、高さ6mの分厚い石の城壁に囲まれ、貯水槽と大きな食料庫も備え、難攻不落と考えられていました。ユダヤ人は、どうローマ軍が攻めてこようとも、数年間は持ちこたえられると考えていました。
「きっとローマ軍は根気強く台地の側面を登って来るだろう。弓兵や攻城ばしごを使って城壁にとりつこうとするはずだ。」
そうユダヤ人は思いました。
 ところがローマ軍はなかなか攻めてきません。まずは野営地を作り、兵器を作り始めました。車輪のついた二階建ての塔のような「攻城機」、壁や扉をつぶすための「アリエス」、そして「バリスタ」などです。ローマ軍は数百人におよぶ技術者集団(ものづくり専門の人々!)を連れてきていたのでした。さらに、数学者が木製の器具を使って距離を計り、台地を登ってゆく傾斜路の建設に最適な場所を計算し始めます。石板上で計算を終えた数学者は、ローマの陣地から30.5m上方に立つ城壁まで続く長さ81mの傾斜路を作るのに、どれだけの土砂が必要か計算して設計図を作成。ユダヤ人奴隷を使って土砂を運ばせて傾斜路を作り始めました。
 6カ月後には作られた傾斜路を、攻城機やバリスタがマサダの城砦に迫りました。バリスタの発射角度や巻き上げの回数は数学者たちによって正確に計算され表にまとめられ、驚くべき命中精度です。ユダヤ人がローマ軍のこれらの兵器を攻撃しようとも、ローマ軍は機械の正面を鉄の板でおおっており、飛び道具も火も通じません。こうして「難攻不落」と言われたマサダの城砦は、ローマ軍に突入され、陥落したのでした。

 ユダヤ人たちは、神への信仰によって勝利が得られると信じていました。同じように、古代エジプト人は神々のおかげで自分たちは不死身であると考え、ガリア人は神々に訴えればどんな戦争にも勝てると信じていました。
 それなのに、これら深い信仰に支えられた文明のすべてが、ローマの軍事力に敗れました。もちろんローマ人にも信じる神はいましたが、神を頼りにすれば戦争に勝てるとは思っていた将軍はいませんでした。勝利のために必要と考えられたのは、プロの軍人の集団と訓練、そして技術でした。ローマ軍の強さの秘密は、まさに「ものづくり」の力にあったのでした。
 このように「ものづくり」の力は、歴史上、優れた武器の開発に使われることがよくありました。原子力もインターネットも元々は戦争に勝つために作られたものです。私のホームページの品々が兵器ばかりなのもやむをえないかと…


3.発射シーン


              

4.作り方

(1)Adobe Illustratorで設計。
(2)レーザーカッターで切断。(ガリレオの振り子時計と同様)
(3)組み立て。


【参考文献・ホームページ】

・市川定春「武器甲冑図鑑」新紀元社、2004年(p.94-95)
・塩野七生「ローマ人の物語(9)」新潮文庫、2004年(p.150あたり)
・アーネスト・ヴォルクマン著、茂木健訳「戦争の科学 古代投石機からハイテク・軍事革命にいたる兵器と戦争の歴史」主婦の友社、2003年

LEGION XXIV CATAPULTA PAGE
 実物サイズのものを再現しています。ローマ兵の格好をしていて、もう気分はローマ軍!

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